何かを掴もうと思案し、その度に拒絶し、許容してきた。
俺の一族に関わる呪い、もとい、因果は消え失せないのだと、自覚した。
其れはそれでもいい。
問題は、別のところにある。
(またしても許容するのだ。)

「J、客だ。」

薄い紫色の髪が靡いて、俺の横を通り過ぎる。
口元の三日月を恨めしく見ながら、俺は前を向く。
散らかった紅は、俺が白に戻すのだろう。
ため息を一つ吐き、唯片付けに勤しむ。
その間にも思考は働いて仕方ないのだ。

何故、何故。
どうしたら、どうしたら。
親が悪いのか、先祖が悪いのか。
(後者ならば、俺も含まれているのだろう。)

「あーあ・・・。」

窓から見える空は、こんなにも黒くて綺麗なのに。
覗く星々が、光っているのに。
手が届かないような、其れでいて淀んだ闇の中に放り出される。
なんでだろうな、とずっと考え続けてきた。
Jが、何故、Jであるかを。
元より性格は歪んでいたらしい。
これは、Jが話した事実だ。
何故そうなったのか、これはもう血筋の問題なのか。
先祖は誰だ。
俺の親父だ。
だったら俺も?
そうだ俺もだ。
俺も表面はこんな顔をしているが、中は、中は。

「やめちまおう。」

こんな思考は。
(またしても拒絶するのだ。)

「君は何時も難しい顔をするんだね。」

横に目をやると、Jが扉に寄りかかって立っていた。

「商談はどうしたんだよ。」
「上手くいったさ。もう終わったんだよ。」
「そーかよ。」
「ねぇ、どうしてそんな顔をしているんだい?」
「んなこと俺の勝手だろ?」
「ふーん?」

Jが珍しく興味を失せてくれない。
俺としては、興味をなくして早く片付けをして欲しいところだが。

「僕を見ると、何時もそうだ。いや、僕を見なくても何時もそうだよね、君は。」
「この顔は生まれつきだっての。」
「顔の問題じゃなくて、表情の問題さ。」
「表情もこんなもんだろ。」
「そうかい?そうなんだろうね、君は何時だって僕に囚われる。」

ニィ、と描いたJの口元。
時が止まった様な俺の表情。

「君は何時だって、僕のことばかり。」

僕も君が好きだけれどね?と、ぞっとする言葉を囁く。
俺はJを軽く突き放して、うんざりしたように言う。

「いい加減にしろよ。俺は食われねぇーぞ。」
「ふふふ、楽しみだよ。」
「あ”ぁ”!?食う気かよ!」
「んー、・・・。」

いらなくなったらね?
そう聞こえた。

「君が僕に何を望むのか、僕は分かっているんだよ。」
「だったら・・・・いや、待て。」

其れは不可能だ。
Jが俺の望みを叶えるのは、不可能なのだ。
もう、既にJはJであり、残酷で冷徹で変態な部分もJなのである。
性格否定は、Jを否定すること。
JがJでなくなることを、俺は望んでいる。
それで?
Jは其れを叶えてくれるのか、否。
分かっているだけなのだ。
分かっているだけなのだ。

「はぁ・・・、で?」
「うん?」
「それでどーしたよ。」
「ああ・・・君はとんだ無茶なことをお願いするんだなぁって思っただけだよ。」
「無茶、か。」
「そうさ。君はあの光る星を掴むというぐらい無茶なことを願っているんだよ。」

其れは一生掴めないということか。
解決方法を、この因果を断ち切る方法を。
望めないのか、望めないのだろう。
何かにこじつけて、ずっとずっと追い続けているのだろう、俺は。
ずっと、ずっと。

「どーでもいいが、商談成立したなら、コレ片付けろよ。」
「さてと、あの子の様子でも見に行くとするよ。」

逃げる気だな、と少しJを睨んだ。
Jは微笑みながらゆっくりとした足取りで歩いて行く。
ふと、扉の前で止まり、振り返って俺に言う。

「これは血筋の問題なのかな?」

そうして、扉の向こうへ消える。
残されたのは、片付けしきれてない部屋と、俺。
実行しきれない望みと、方法。

血筋の問題なら、Jを殺してしまえばいいのだ。
そうすれば、一気に断ち切れる。
子孫など、もう、いなくなる。
それでは駄目なのだ。
そう、Jの言う通り、血筋、ではないのだ。
(予め、気づいていたんだろ?)

求めたのは、絶対的に身近な、そう、それでいて。
でも、けれど。
俺はそれを拒絶し、新たな答えを求める。
そして、Jの罪を、俺の罪を、許容して、また、拒絶して。
何処に求めればいいのか、何処に。
答えはもう、籠の中に閉じ込められているのに。
其の籠が、まだ、見えねぇんだ。








青い鳥

(籠の中の、本当の答え。)
(優しさ、は、何処にだって転がっているはずなのにな。)





+

かなり久しぶりに書いてみたシロモノ。
Mr.Jと銀の話。
ブログでちまちま書いた「許容と拒絶」の続きみたいなもの。
盲目的に因果を断ち切る方法を求める銀がメイン。
与えるべきものは理解しているのに、其れを跳ね返して、ずっと追い求め続ける。
青い鳥症候群やもしれない。
Jに必要なのは、唯、愛とか優しさとかそんな単純なようで複雑なもんでいいと思う。
唯包むだけでも、それだけでも。
”本当に綺麗な子”のように、唯、説得するだけでも。
誰もそんなことしないから、ずっとずっと、連鎖は続く。
解ってる筈なのに、其れを拒絶するのは、自分こそ、其れが欲しいから。
・・・だと思う。

Thank you!