『オオカミが来た!』
少年が言いました。
『オオカミが来た!』
少年は嘘をつきました。
『オオカミが来た!』
そして誰も信じてくれませんでした。





オオカミ年





最期、というモノを見てみたくて、”さようなら”を言った。
暗闇に光る一筋の黒い光。
貫いた先に見えた光源に向い、歩みを進めようと思った。
氷の瞳が一番輝くのを見てみたかった。
君の、その、紅い瞳の中で。
紅に溺れて消えていく光を、見てみたかった。
・・・なんて言ったら、君は怒るだろうね。

「また、何をしているんですか。」

見れば解る答えをあえて僕に尋ねる。
君のその紅は、先ほどの紅より、色濃い。
咎が染み付いているように。
(けれど実際のところ、君は綺麗なんだと思うよ。)

「えー、暇つぶしw?」

言葉に嗤いが含まれるのは、君を嘲笑っているわけじゃない。
分かってるとは思うけれど。

「ワイシャツが汚れてますね・・・誰が落とすと思っているんですか。」
「ん、君か、シェネア。もしくはシュレルちゃん?」
「シュレルさんはそういつもいませんよ。」
「じゃー、君等2人のどちらかだねw」

爽やかに、親指を立てて見せる。
其れすら軽くスルーし、溜め息を吐く、君。
5本の指にこびり付いた咎が、染み付いて、もう二度と落ちない気がした。

「暇つぶしもいいですが、そろそろ。」
「夕食?」
「ええ。」
「じゃ、帰らないとねw」
「そうですね。」
「今晩は何かなぁw?」
「さぁ。」
「人肉パーティーw?」
「そんなモノ開いて如何するんですか。」
「勿論、食べに食べまくる!」
「・・・貴方は食べられるんですか?」
「ううん、僕は食べられないよwきっと不味いだろうからねw」

君達が食べるのさ、とか言ってみる。
案の定、君は食べたくないですよ、って。
まあ、其れが”普通”だよねって返してみる。
罪人の肉なんて食べたら、きっともう僕は、黒を隠せないだろうから。
(もう皆に知られている部分は、まだ灰色さ。なんて、思ってみる。)

「何だろーなー。」

両手に染み付いた紅が、浸透して、元から自分の一部だったような気がし始めてきた。
夕食を待ち遠しいと感じている子供のフリをして、紅を削る。
紅は爪に残って、僕を此の侭引きとめようとする。

「片付けはしないんですね。」
「どうせモンスターが食べるでしょ?」

濁った眼球は、紅の余韻を残し、赤黒い色と絡まって、黒く染まっている。
視線は何かを訴えるが、その中に生気は無い。
だから、意味を成さない。
僕の心に、何も、残さない。
軽い足取りで、黒々とした森を抜ける。
もう少し。
もう少ししたら、”家”だから。

「最近、紅い瞳の人をよく殺しますね。」

足に急に枷がついた。
酷く重たい、足枷が。

「赤髪の人なども、よく死体に成ってますが。」

更に冷水を上から掛けられた。
ざぶん、というより、つうっとした感じで。

「これら二つの要素が加わると、その人は綺麗に肉塊にされてますね。」

頬に鉛がかけられた。
硬くなって、重くなる。

「何故、ですか。」

また、何故か解る答えをあえて僕に尋ねる。
君はよく、あえて解るのに、返答を求めるよね。
って言えたらいいのに。

「そうかなぁ?」
「そうですよ。やはり、私を殺したいんじゃないんですか?」
「えー、嫌だなぁ、其れは無いってw」
「・・・殺したいんでしょう?じゃなければ、何故?」

言葉をどう、吐き出そうか。
コンクリートを吐き出す機械の様に、一定に同じ量で淡々と、黒を吐き出そうか。
其の光を、述べようか。
いや、だけれど。
僕はそんなに、器用じゃないから。

「紅プラス紅、イコール、綺麗、だったからかな。」
「それだけですか?」
「他に何か欲しい?」
「出来れば今後の護身も兼ねて、欲しいですがね。」
「えーww」

口を噤んで、静寂を作る。
巨大な満月を空気に、夜空に少し影を想像する。
君も黙りこくり、其の瞳が、一層、血のように見えた。
流れる紅い潮、脈打つ心、それらの象徴のように見える。
(言い方を変えれば、死にも繋がる象徴だ。)

最期、というモノを見てみたくて、”さようなら”を言った。
君が驚いた表情を作った。
其の瞬間、暗闇に光る一筋の黒い光。
貫いた先に見えた光源に向い、歩みを進めようと思った。
氷の瞳が一番輝くのを見てみたかった。
君の、その、紅い瞳の中で。
紅に溺れて消えていく光を、見てみたかった。
・・・なんて言ったら、君は怒るだろうか。
ナイフを君に突きたてようとする。
其れを上手く交わし、君は僕と距離をとる。
ナイフが紅く輝いた。

「先ほど使ったナイフ、ですか。」
「うんw」
「・・・やはり、貴方は、」
「あははw」

僕のこの笑顔を、君は肯定と受け取るのだろうね。
(もしかしたら勘がいいから、否定と受け取るかもしれない。どちらでもいいかな。)

僕が剣を持つ。相応しくない、白い剣を。
君は其の侭、すらりとした体躯で佇んでいる。
すぐに僕を飲み込む魔法を作れるから、君は余裕なのかもしれない。

「−− −−−−−− −−−−−−−−!」
(ねぇ、僕を殺してよ。飽き飽きしたのさ!)

灰色のオオカミが、獲物を目掛けて駆けて行く。
君はまたも交わす、そして、交わすだけ。
紅い瞳が疑問を乗せた光を放つ。

「先程、何か言いましたか?」
「ううん、言ってないよw」

オオカミは獲物目掛けて駆けて行く。
其の鋭い牙で、喉笛を切り裂こうとする。
獲物は軽やかにステップを踏んで、交わす。
オオカミは諦めが悪い。
またも、切り裂こうとする。
獲物はうんざりしているだろう。
それとも、死にたくないという思いか。

「逃げるだけだねぇw」
「貴方と戦っても勝ち目はありませんから。」
「またまたーw」

”ご謙遜を。”

「もう、やめませんか?」
「何で?」
「私を狙いたいのなら、本気で来て頂かないと。」

”貴方の嘘に付き合っていられませんよ。”

「ん、どの嘘か分からないwだから言ってる意味が分かんないw」
「・・・まあ、構いませんがね。」
「え、じゃ、やろう!」
「そっちじゃありません。」

嗚呼、やっぱり僕は、君に。

「諦められないなあw」
「オオカミごっこはまた今度にして下さい。」

夕食に遅れたら、シェネアさんに迷惑ですから。
と、君はいつものように僕に背を向ける。
さっきのことがあっても僕にそう出来るのは、僕の嘘を見抜いているから。
(決して、僕を信用しているわけじゃないってことは知ってるよ。)

「何だろうね、夕食w」

だから僕も、君の横へぴったり並ぶんだ。
君の、利き手の横に。

「其の前に、手を洗って下さい。また渋い顔されるのは貴方ですよ。」
「分かってるよー、もう、紅華ったらお母さんwww」

この茶化しが、どうか、永遠を保ちませんように。

落ち葉を踏む足音が、静寂を壊していく。
そして、唯僕等を、其の情景に異質として映し出す。
月が嗤う、嘘吐き達を。
いつかきっと、信用出来ないという雰囲気を出し合うだろう、僕達を。
(君も嘘吐きだって、僕は知ってるんだから。)

この嘘が、どうか、永遠を保ちますように。

「ねえ、君は僕を殺したい?」
「いいえ。」
「そっか。」
「貴方は殺したいようですけれどね、私を。」
「だから、其れはないからw」
「では、先程のアレは何だったんですか?」

僕は嗤った。
紅に溺れて消えていく僕の光を、見てみたかった。
・・・なんて言ったら、君も嗤うだろうね。





『僕は君を信じているし、此れからも一緒に生きよう。』
青年が言いました。
『僕は嘘なんか言ってないよ、嗚呼、いつもは言ってるけど。』
青年は嘘をつきました。
『ねぇ、僕は死にたいんだ、君に殺して欲しいんだ。』
そして誰も信じてくれませんでした。

いつか来る、この日まで。





+

第五弾、虚白と紅華。
タイトルを見た瞬間、こいつ等だ!と思ってしまったが運のツキ。
いよいよ虚白が死にたがりだ。←
だけど、自殺なんてしないし、紅華以外に殺されるのは嫌だし。
本当に死にたいのかさえ、自分で分からないのかもしれない。
それで、死にたい、と纏めてある。
うーん、ぐだぐだ。
紅華もある意味、嘘吐きなので。
其の点、オオカミ少年達・・・いや、オオカミ青年達なんだろうね。
意味を解しにくい小説の練習。

Thank you!