『嫌なら戻してよ。
 何も知らなかったあの頃に。』

「彼がそう言ったので、私は仕方がなく。
 えぇ、はい、他に選択肢が無かったんです。」

『好きなら進めてよ。
 全てを知ってしまったあの先に。』

「彼がそう言うので、私は仕方なく。
 えぇ、はい、他に選択肢が無かったんです。」











朝目が覚めれば規則正しい生活が待ち受ける。
昨日と変わらぬ朝をやり過ごし、微妙な変化を伴う一日を送る。
それでも大まかな流れは何一つとして変わらない。
未だに何も壊れてないし、壊されてもいない。
隣で笑う悪魔は、何時ものように天使ぶっている。
悪戯と称して他を朱く染め、自身は朱を上塗りしている。
その様子に呆れたふりをして、目を逸らして生きる。
これが、私の日常。

この先には何が待ち受けているのだろう。

何時もと変わらぬ日常なら構わない。
おそらく私は別の島に移動してしまっているだろうから。
其の時この悪魔も一緒なのだろうか。
それはないな、と悪魔と一緒の未来を否定する。
もし一緒なら、私は此処で死ななければならない。
そして悪魔と一緒に地獄へ旅をすることになる。
私が別の島に移動するという日常は、悪魔が一緒では成り立たない。
それでは突然非日常が訪れたらどうなるだろう。
悪魔と一緒の未来に違いはないな、と隣の悪魔を見遣る。
彼の瞳は青色で、血のような赤ではないけれども。
其の瞳には確かに、獰猛な冷たさがあるのだ。
彼の髪は金色で、闇のような黒ではないけれども。
その髪には確かに、酷く鋭利な光があるのだ。
天使の見た目を持つ彼なら、私を天国と称した地獄へ連れていくことなど容易いだろう。
一緒に地獄へ旅をする羽目になるのだ。

結局私は死ぬのだ。
それも、幸せな死などではないだろう。

別の島に移動したとしても、また移動する羽目になり、私が死ぬまで連鎖する。
私の辿り着いた島が無人ならば、私は安らかに死ねるだろうが。
もし私の辿り着いた島が有人ならば、私は酷く惨めな死を迎えるだろう。
其の島の住人が、墓を建ててくれるかもしれない。
其の島の住人が、泣いてくれるかもしれない。
これほど惨めなことがあるだろうか。
誰も私を知らず、私も誰も知らないのだ。
上辺のみを見られて、其れで泣かれるならば。
いっそ誰もいない方がいい。
しかし、人生とはうまくいかないもの。
きっと私に幸せな死は訪れはしないだろう。
おそらく私は有人の島で死ぬのだ。

例え非日常が訪れたとして、それこそまさに不幸な死を迎える羽目になる。
ますます最近分からなくなってきた隣の悪魔に、私は殺されるのだ。
灼熱の紅を浴びて、私は苦しみながら死ぬのだ。
怯えながら、恐怖しながら。
いっそ全てをさらけ出してしまおうなどと、自殺めいたことを考える程狂うかもしれない。
其れでなくともあの悪魔は私を知る機会などいくらでもあるのだ。
其れをあえてしない辺り、私はまだ生きることの出来る余地がある。
しかしそれも何時まで続くか分からない。
悪魔の心中は酷く気まぐれだ。

いっそ私が殺そうか。
彼は何時だか嫌って欲しそうにしていたから。
いっそ私が殺そうか。
彼は何時だか私を恍惚と見ていたから。

なんて。

道を誤った様な気がする。
気まぐれで人を救った時から。
流れて生きていれば、私が意志を投げ出した侭生きていたら。
未だ私は日常の中にいた様な気がする。

そうだ、今は既に非日常の中だ。
そう思った時、隣の悪魔が嗤った気がした。

「何考えてるの?」

鋭利な青い曲線だ。

「貴方の遊びに付き合うのも体力が要りますね、と思っていただけですよ。」
「えー、ひどーい。」

変わらぬ仮面だ。

「楽しいじゃんかー。」

何を考えているのですか?

「んー?」

ほら、ね。
彼は何時だって解っているのだ。
私が殺されるのも時間の問題のようだ。
(悪魔と地獄への旅路へ出てしまいそうだ。)





「嫌なら戻してよ。
 何も知らなかったあの頃に。」





非日常は、突然現れるのだ。





朝目が覚めれば規則正しい生活が待ち受ける。
昨日と変わらぬ朝をやり過ごし、微妙な変化を伴う一日を送る。
それでも大まかな流れは何一つとして変わらない。
未だに何も壊れてないし、壊されてもいない。
隣で笑う大人は、何時ものように子供ぶっている。
悪戯と称して他を巻き込み、自身は其の損害から免れている。
その様子に呆れたふりをして、目を逸らして生きる。
これが、私の日常。

この先には何が待ち受けているのだろう。

何時もと変わらぬ日常なら構わない。
おそらく私は別の島に移動してしまっているだろうから。
其の時この大人も一緒なのだろうか。
それもいいかもしれないな、と彼と一緒の未来を肯定する。
もし一緒なら、私は彼と一緒に死ななければならない。
そして彼と一緒に死ぬならば、世界は安定して動くのだろう。
私が別の島に移動するという日常は、今すぐにでも訪れそうな未来だ。
それでは突然非日常が訪れたらどうなるだろう。
孤独な未来に違いはないな、と隣の彼を見遣る。
彼の瞳は青色で、水のような透明さはないけれども。
其の瞳には確かに、一貫した光があるのだ。
彼の髪は金色で、全てを映すわけではないけれども。
その髪には確かに、光の中で煌めく輝きがあるのだ。
子供の面影を残した彼ならば、私を残して勝手に消えることも可能だろう。
私は独り、彷徨い続けることになるのだ。

結局私は死ぬのだ。
経緯次第では、幸せな死などではないだろう。

別の島に移動したとしても、また移動する羽目になり、私が死ぬまで連鎖する。
私の辿り着いた島が無人であろうと有人であろうと、私は酷く惨めな死を迎えるだろう。
其の島の住人か彼が、墓を建ててくれるかもしれない。
其の島の住人か彼が、泣いてくれるかもしれない。
しかしそんなことはどうでもいいのだ。
死すれば私は其の島の住人たちのこと等忘れてしまうだろうから。
問題は、彼だ。
死ぬまで私は彼の悪戯に付き合うのだ。
それも構わない。
唯、彼と離れて死んでしまうのが酷く怖いのだ。
私が先に死んでしまうのが酷く怖いのだ。
私は他の大勢はいいとして、彼に殺されるのが酷く怖いのだ。
しかし、人生とはうまくいかないもの。
きっと私に幸せな死は訪れはしないだろう。
おそらく私は先に死ぬのだ。

例え非日常が訪れたとして、それでこそ私は幸せな死を迎えることになる。
ますます最近分からなくなってきた隣人を、私は殺すのだ。
灼熱の紅を浴びて、私は彼をあの世へ送りだすのだ。
怯えながら、恐怖しながら。
いっそ全てを教えてしまうなどと、牧師ぶったことをしてしまう程高揚するかもしれない。
其れでなくとも彼は私を知る機会などいくらでもあるのだ。
其れをあえてしない辺り、彼はまだ生きることの出来る余地がある。
しかしそれも何時まで続くか分からない。
彼の心中は酷く気まぐれだ。

いっそ今すぐ殺そうか。
彼は何時だか嫌って欲しそうにしていたから。
いっそ今すぐ殺そうか。
彼は何時だか私を恍惚と見ていたから。

なんて。

道を誤った様な気がする。
気まぐれで人を救った時から。
流れて生きていれば、私が意志を投げ出した侭生きていたら。
未だ私は日常の中にいた様な気がする。

そうだ、今は既に非日常の中だ。
そう思った時、隣の子供が笑った気がした。

「何考えてるの?」

愉快そうな青い輝きだ。

「貴方の遊びに付き合うのも体力が要りますね、と思っていただけですよ。」
「えー、ひどーい。」

変わらぬ仮面だ。

「楽しいじゃんかー。」

何を考えているのですか?

「んー?」

ほら、ね。
彼は何時だって解っているのだ。
私が殺すのも時間の問題のようだ。
(孤独の道を歩み始めてしまいそうだ。)





「好きなら進めてよ。
 全てを知ってしまったあの先に。」





非日常は、突然現れるのだ。





朝目が覚めれば規則正しい生活が待ち受ける。
昨日と変わらぬ朝をやり過ごし、微妙な変化を伴う一日を送る。
それでも大まかな流れは何一つとして変わらない。
未だに何も壊れてないし、壊されてもいない。
隣で笑う悪魔は、何時ものように子供ぶっている。
悪戯と称して他を朱く染め、自身は其の損害から免れている。
その様子に呆れたふりをして、目を逸らして生きる。
これが、私の日常。
これが、私の日常だった。
(其れすら既に非日常ではあったが。)
(もう、すっかり慣れてしまっていたのだ。)





暗く湿った地面。
薄く日が射す室内。
薄汚れた紅を見遣り、目を開ける。
朝目が覚めれば規則正しい生活が待ち受ける。
昨日と変わらぬ朝をやり過ごし、微妙な変化を伴う一日を送る。
それでも大まかな流れは何一つとして変わらない。
未だに私は生きているし、殺されてもいない。
これが、私の日常。
これが、私の新しい日常。





+

久々過ぎてもろにスランプ。
紅華の独白。
これも紅華と虚白の未来の一つ。
紅華は最期まで虚白を怯えてる(事実はさて置き)。
虚白は最期まで死を望む(本心はさて置き)。
後半について。
紅華は別に虚白を殺したいという思いが強いわけではなく。
恐怖やその他の感情が綯い交ぜになった結果、彼には死しかないと考えるわけで。
虚白が死ぬ方が世界は安定します、確実に。
しかしそれを果たして本当に望んでいるのか。
虎の威を借りた狐状態なのに、独りで生きていけるのか。
望む望まないはさて置き、全て捨てて生きていくことを、おそらく紅華は出来る。
虚白は全く出来ないけれども。
最期に紅華が居た場所は、檻の中。
非日常は日常となり、新しい非日常が来る。
そしてそれも何れは日常となる。
これの永遠的繰り返し。
タイトルの『リセットボタン』ですが、これは紅華の行為にあり。
日常を始める為、非日常を脱する為。
”初めに戻って”独りで生きていく。
冒頭文は紅華と警備団との事情聴取のやり取り。
警備団はさぞかし困惑するだろうなぁ(笑)。
 
Thank you!