後ろを振り返ったら、在るのは唯、黒だけなんだ。





血





甲高い音が耳に届いた。
それでも振り上げた手を止めることは出来ず。
更なる高い音を響かせた後、静寂は訪れた。
唯耳の裏に残る、無意味な高い音。
聞きなれた鈍い音と、液体の音。
手に残る感覚を確かめて、少し、嗤う。

(これはきっとしゅうえんのはじまりだ。)

何時からだったか。
生き残りたいという思いが、唯の黒い思いになったのは。
否、初めから白くなどなかった。
理由付けは後からでも出来て、そしてきっと今僕はそうしたのだ。
何時からだったか。
僕を制止していた彼が、今は、傍観することすらしなくなったのは。
否、初めから彼は演技をしていたじゃないか。
僕を止めるふりをして、何時も見ていただけだった。
何時から。何時から。

(いつからぼくはくろしかみえなくなったのだろう。)

振るう剣は紅く染まり、そして、白へ戻るのに。
白を纏って生まれた僕は、紅にもなれず、黒へ還るだけだ。

息を吐く。
息を吸う。
息を吐く。
暑さも過ぎ去った季節の中で、体だけが妙に熱くて。
目を閉じて風を感じても、生温く。
木々の囁きだけが、冷たかった。

鴉が鳴く。
もう帰らなくちゃいけない。
子供の僕は何時だって、いい子にしてなくちゃいけないのに。
つい、悪い子になってしまう。

(いいことわるいこのちがいをおしえてよ。)

思考に耽っていたせいで気がつかなかったが、今、気づいた。
周りに数体、獣が居る。
唸って、体格の小さい獲物を威嚇して。
其の気配で縮こまらせ、其の瞳でねめつけ。
そして、鋭い牙をもって食い千切ろうとする獣が。
厄介だな、と思う反面、笑う僕がいた。





(しくじった。)





仰向けで夜空を見上げる。
蒼い月が火照りを鎮めてくれる。
嗚呼、しくじった。
帰りが遅くなってしまった。
咽返る程の紅い匂い。
吐き気を催すほど、辺りを飾り付けるモノ。
嗅覚と視界をやられて、ついでに腕もやられて、寝転がるしかなかった。
なんて。
腕の痛みを無視して起き上がり、帰路に就く。
ふと、後ろを振り返った。
良くない癖だ。
罪悪感すらない癖に。
などと、自分に言ってみる。
後ろには変わらずの光景。
そして、・・・おや。

自分に続く、黒い、黒い。

腕から滴り落ちる血が、地面に届く前に黒く染まり、地に堕ちる。
其れがまるで足跡のように続いている。
可笑しいな、これではまるで僕は自分の種とは違う生き物のようだ。
そう、そうだ、まるで化け物だ。
黒々とした液体が、後ろに続いていく。
気がついたら、腕から流れる血さえ黒く。
ああやっぱりだ、と確信した。

(ぼくはばけもの、だから、だから。)
(みんなみすてていくんだよ。)

僕を自由にさせておいて、野放しにしておく。
構って欲しいの?僕。
さあね、いや、うん、そうなのかもね。
ねぇねぇ、誰か構ってよ。
誰ももう止めてくれないの。
止めてよ止めてみせてよ。
彼はもう知らんぷり。

後ろに続く黒い血が証明してくれる。
もう僕は過去の僕ではない、と。

(なら、あんしんだ。そう?うん、そうだよ。ちがうよ。)

ぼんやりと、腕を見つめる。
流れる血が固まっていく、黒に。
肌の色すら黒くなっていく。
瞳と髪だけが清浄な色を保つ。
其の内理性すら飛んで意しきすらなくな





「虚白?」

「こんなところで寝ないで下さい。」

「帰りますよ。」

「起きて下さい。」





僕は都合のいい夢を見る。
現実への帰り道は、残された血が導いてくれる。

(いつかくるおわりへはしっていくのは、ぼく。)





+

お久しぶりに書いてみました。
今回も、虚白とちょっと紅華。
こいつら書きやすいや、特に虚白(笑)。←
同じ中二病っぽいところが自分と似てるのかな。
・・・・・ないか。
少し意味不明な感じにしてみました。
実際は血の色も何も変わってないのに、変わってるように感じる。
過去との比較の上で、変わってしまった自分を見つめなおしている。
そんな感じです。
何時か彼が闇に呑まれる時、其の時に近い時での話。
予想をしているというわけです。
それでもまだ引き返す道が在ると、無いのにそう思うのです。
黒い血は所詮、闇への入り口。

Thank you!